建築史家 西和夫は、日本建築に関する建築史家の中でも最も有名な人物の一人です。
日本史・美術史・民俗学など他分野ともコラボレーションしたことでも知られています。
1993年に千野香織と共著した『フィクションとしての絵画』で小泉八雲賞を受賞しています。
修復事業としては、長崎の出島にあるオランダ商館や佐賀城本丸御殿にも関わっています。
私は、「工匠たちの知恵と工夫―建築技術史の散歩みち(西和夫 著)」を初めて読んで、とても印象に残っています。
なんか、名前を残していない先人の技術に目を向けている、その視点が好きだったのですよね。
というわけで、今回は西和夫の執筆した本のご紹介です。
本記事の内容
本記事では、建築史家 西和夫が執筆した書籍【13選】を紹介します。西和夫は、民俗学にも興味を持って、建築の視点から民俗芸能の空間を分析しています。こうした広範な興味と知識が、他の文章にも深みを増しているように感じます。やっぱり、「建築を見る視点」の面白さは抜群です。
目次
- 二畳で豊かに住む(西和夫 著)
- 図解 古建築入門―日本建築はどう造られているか(西和夫 著)
- 長崎出島オランダ異国事情(西和夫 著)
- 祝祭の仮設舞台―神楽と能の組立て劇場(西和夫 著)
- 建築史から何が見えるか―日本文化の美と心(西和夫 著)
- 建築史に何ができるか―町並み調査と町づくり(西和夫 著)
- 京都で「建築」に出会う―見るおもしろさ、知る楽しみ(西和夫 著)
- 工匠たちの知恵と工夫―建築技術史の散歩みち(西和夫 著)
- 建築技術史の謎を解く―続・工匠たちの知恵と工夫(西和夫 著)
- わが数寄なる桂離宮―時のかなたからの証言(西和夫 著)
- 兼好法師すまいを語る―中世文学の建築散歩(西和夫 著)
- 紫式部すまいを語る―王朝文学の建築散歩(西和夫 著)
- 建築史研究の新視点〈1〉建築と障壁画(西和夫 著)
1. 二畳で豊かに住む(西和夫 著)
こうした狭小住宅にある種の世界観を投影するのは、日本特有ですね。
そうしたミニマルな空間の良さをどう読み解くのかはおもしろいです。
かつてウサギ小屋などと海外から揶揄されたように、日本の住宅事情は劣悪だとされている。だが夏目漱石や内田百間、高村光太郎など極小の空間を楽しみながら住んだ先人たちをみると、広さのみが豊かさに通じるとは言えないのではないか。本書は、究極の住居の実例を示し、住むことの根源を考えてみようとするものである。狭い住居の工夫を知って身の丈の生活の意味を再検討する。【目次】はじめに――狭いながらも豊かな空間/第一章 内田百間、二畳に夫婦で住む――作家が語る小屋生活/第二章 高村光太郎の山小屋――雪深い里で詩作にはげむ/第三章 永井隆の二畳の如己堂――原爆の町で平和を求めて/第四章 多摩川渡船場二畳の小屋――氾濫したら持ち運ぶ/第五章 夏目漱石・中村是公、二人の二畳の下宿/第六章 正岡子規の病床六尺――ふとん一枚、これが我が世界/第七章 四国、村はずれのお茶堂――遍路たちの一夜の宿/第八章 建築家提案の最小限住居――極小空間の特色/おわりに――狭いながらも楽しい我が家
2. 図解 古建築入門―日本建築はどう造られているか(西和夫 著)
木造建築の基本を学べます。
図解でわかりやすいので、お寺などの古建築の見方が身につきます!
まずは基本からですが、応用も十分にできます。
多種多様な木造建築の中で、基本的かつ典型的なものを知っていれば、他のものは大抵理解できる。本書はこのような観点で、豊富な図版と写真、簡明な解説文で古建築がどう組み立てられているかを解き明かしている。 [主な目次] Ⅰ. 建築の組み立てかた Ⅱ. 建築の構成と各部の様子 Ⅲ. さまざまな建築
3. 長崎出島オランダ異国事情(西和夫 著)
西和夫は出島のオランダ商館の復元に携わりました。
専門官の視点から、出島を建築から分析していて面白いです。
江戸幕府が公認した交易地のひとつ、長崎の出島。かつてオランダ人たちは、自由を奪われた「監獄」だと出島生活を嘆いたという。いま日蘭交流四百年を記念して出島を完全に復原する事業が進められている。この建造物の復原検討によって、従来不明であった生活の実態が建造物と結び付いて鮮明に見えてきた。オランダ商人の生活や出島に出入りした役人・町人・遊女の姿から江戸と長崎を結ぶ長崎街道と定宿まで、出島が江戸時代にもっていた役割や意義を、建造物という新たな視点から解き明かす。
4. 祝祭の仮設舞台―神楽と能の組立て劇場(西和夫 著)
民俗芸能の仮説舞台を対象としているのが面白いですね。
いろんな事象を「建築」というフィルターを通してみると、「祭り」の中で見えてくる世界が変わるのが興味深いです。
ここ数年、研究室の学生と一緒にあちこちの祭りを訪ね、仮設舞台を調べた著者が、調査結果の中から、仮設舞台の例、祭礼の様子、組み立てる工夫などを紹介する。
5. 建築史から何が見えるか―日本文化の美と心(西和夫 著)
建築史を学ぶ初学者にも適していると思いますが、旅行が好きな人にも是非読んでもらいたいです。
建築史を知ると、その土地の文化が見えてきます。
目次 1 建築史を語る(建築史から日本文化を語る 神の建築、権力者の建築 将軍の館、大名の邸宅、元勲の別荘) 2 数寄空間を語る(光琳屋敷の数寄世界 修学院御幸記 自然と共存する数寄空間) 3 建築の用語を考える(虚実皮膜の間から伝統が見える 建築の言葉 建築用語を考える) 4 建築家を語る(建築家を語る 建築家に聞く 民家再生、町屋再生)
6. 建築史に何ができるか―町並み調査と町づくり(西和夫 著)
建築史という学問は、具体的な「まちづくり」に応用できます。
閉じた学問ではなく、「オープン」な学問領域を目指すのが今の学問の方向性です。
「街並み調査」をどのように「まちづくり」に役立てていくのかの手法がわかります。
7. 京都で「建築」に出会う―見るおもしろさ、知る楽しみ(西和夫 著)
京都で「寺社仏閣」をみるときには、まずはこの本を読んでいきましょう。
たぶん10倍は楽しめると思います。
建築のどこに目を向けるのか。建築の優れた意匠、そこにある歴史背景を知ることによって、「建築」のおもしろさ、楽しさを感じることができる。この本は単なる建築案内書ではなく、京都の建築を例にして語った、建築を「楽しむ」ための案内書である。
8. 工匠たちの知恵と工夫―建築技術史の散歩みち(西和夫 著)
これは言わずもがな、名著です。
西和夫の本で初めて読んだ本ですが、今読んでも面白いです。いい本は、何度も読み返せるのがよいですね。
建築史の表舞台に登場しない工匠たちの仕事を技術史研究者の視点から分析推理する。 ■目次 1 板倉と校倉のディテール 古代人たちの知恵/2 掘立柱の時代 奈良の都の建設技術/3 設計図はなかった 模型と現場手直しの時代/4 巨大建築の崩壊 風もなく倒れた出雲大社/5 「方丈記」方丈復原考 方丈はプレファブか/6 規格化の思想 中世の畳と建具/7 秀吉・家康時代の入札 近世初期の入札技術/8 近世の上棟式 儀式と祝儀と棟梁たち/9 犬山城主から茶人へ ある桃山武将の人生/10 建築を推理する 西本願寺書院の場合/11 ジョイントベンチャーは昔から 京都御所の丁場分け/12 都市は設計されたか 城下町の設計技術/13 巨大建築と巨材運搬 公慶上人の大仏殿再建/14 宵越しの銭は持てたか 大工文書・落語・川柳が語る大工の素顔/15 江戸から明治へ ある大阪大工のはなし/16 甦る明治建築 熊本高等工業講堂を住宅に
9. 建築技術史の謎を解く―続・工匠たちの知恵と工夫(西和夫 著)
こちらは上記の「工匠たちの知恵と工夫」の続編です。
建築史の世界は、「想像力の世界」です。
残されたものから、「何を」想像するのか。頭の中に組み立てられた過去の世界が面白いです。
建築の技術は先人たちの知恵と工夫の結晶である。残された痕跡から分析・推理して再現する。 ■目次 1 高松城水攻め堤防復原/2 方位のずれの物語るもの/3 ひとつの数寄屋の物語/4 建築を推理する/5 日本基準尺地図/6 本物の伏見櫓/7 多摩川両岸に水路を通す/8 三ヵ月で五重塔が建つか/9 図面はなぜ図面か 他
10. わが数寄なる桂離宮―時のかなたからの証言(西和夫 著)
桂離宮の本はとても多いです。
こちらは、西和夫が読み解く桂離宮です。
我が国の代表的な名園・名建築として内外に名高い桂離宮の魅力と、その美しさの持つ神秘性を、桂離宮に深いかかわりを持つ当時の7人の人物の名を借りて、その時代背景と成立の過程を語り、解き明かそうとするものである。 [主な目次] 序. 夕映えの桂 1. わが数寄なる桂 2. 関ケ原から桂へ 3. 桂から東山山荘へ 4. 桂への手紙 5. 桜吹雪の桂 終章 鷹ケ峰から桂へ
私は、この本も好きですが、こちらと読み比べしてみてはどうでしょうか?
井上章一の「つくられた桂離宮神話」です。いろんな人の本を比べてみると、面白いと思います。
これも初めて読んだときは結構衝撃的でした。
11. 兼好法師すまいを語る―中世文学の建築散歩(西和夫 著)
「昔の建築」や「住まい感」を文学から想像する!
まさに建築史家の真骨頂です。文学作品がどう料理されて、「すまい」に結びついているのか見てみましょう!
「兼好法師の住まい感」を見ることができます。
透徹した目で中世を綴った世捨人兼好法師の住居感は…。王朝・中世・近世各時代の10編の文学作品を通じて、日本人が古来もっている住まいに対する関心や、住去、暮らしの有様を探る3部作。
12. 紫式部すまいを語る―王朝文学の建築散歩(西和夫 著)
こちらは上記のシリーズの「紫式部の住まい感」を読み解くものです。
なかなか自分では思いつかない視点で、こうやって昔の文学を読むと面白いなぁーと思います。
紫式部が雅びの時代の人々に恋を語らせた場所は…。王朝・中世・近世各時代の10編の文学作品を通じて、日本人が古来もっている住まいに対する関心や、住居、暮らしの有様を探る3部作。
13. 建築史研究の新視点〈1〉建築と障壁画(西和夫 著)
こちらは専門書になります。
障壁画とは、障子絵を含む壁に貼り付けた絵の総称です。
また、天井に描いた天井画や杉戸絵なども全て障壁画に含まれます。
復元作業などに関わって、「障壁画」研究についても言及しています。
【目次】(「BOOK」データベースより)
建築と障壁画の研究、その現状と問題点/第1編 建築と障壁画の復原検討(二条城二の丸御殿白書院の建築と障壁画ー部材痕跡と障壁画による慶長度御殿の復原/二条城二の丸御殿大広間・黒書院等の建築と障壁画 ほか)/第2編 建築と障壁画の諸問題(園城寺勧学院客殿・光浄院客殿と障壁画/名古屋城本丸御殿と障壁画 ほか)/第3編 障壁画制作とその背景(寛政度・安政度内裏造営とその障壁画/寛政度・安政度内裏障壁画の小下絵 ほか)
最後に
如何でしたか?今回は、「日本の建築」をより良くを知るために、建築史家 西和夫が執筆した本13選をご紹介しました。建築史家はたくさん本を書いているので、読み応えがあって良いですね。読みやすい一般書から、専門書まで揃っています。日本建築に興味があれば、読みやすい西和夫はおすすめです。是非とも興味のある一冊を見つけてください。
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