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独立前に建築業界を分析(4)  アトリエ系事務所の基本戦略

建築を勉強してきた人の周りにはきっと、建築大好きな人がそろっていますよね。

何人ぐらい独立していますか?ちゃんと経営できている人はどれぐらいますか?意外と少ないのでは?それをみると独立を考え直したり・・・。

建築業界で、アトリエ系事務所でやっていくための基本戦略はなんでしょうか? そんな疑問に答えます。

本記事の内容

戸建て住宅業界におけるアトリエ系の戦略について3つのフレームワークから考えます。

まず、ポーターの基本戦略から、アトリエ系事務所が取るべきポジションと戦略の基本を考えす。その後、コトラーの「市場地位に応じた戦略」を考えます。その後、アトリエ系事務所の取るべき戦略をアンゾフのマトリクスから考えてみたいと思います。

✔POINT

最初に結論を書きます。

ポーターの基本戦略:アトリエ系は集中戦略を採用すること

コトラーの戦略:アトリエ系はまちがいなく、ニッチャーを目指すこと

アンゾフのマトリクス:アトリエ系は多角化の象限で勝負すること

目次

  1. アトリエ系事務所のKSFについて復習
  2. ポーターの基本戦略からアトリエ系事務所の定石を考える
  3. コトラーの「市場地位に応じた戦略」から、アトリエ系の戦略を考える
  4. アンゾフのマトリクスから、新市場の中でアトリエ系事務所が取れる戦略を考える
  5. まとめ

1.アトリエ系事務所のKSFについて復習

小さな個人営業のアトリエ系の建築設計事務所が戸建住宅業界において成功する鍵(Key Success Factors: KSF)とは何だったでしょうか。

それは、以下の3つに集約されました。以下のことを踏まえた上で、アトリエ系の事務所がとるべき基本戦略について考えてみます。

Key Success Factors: KSF

  • 建物の建築デザインが少数ではなくマジョリティに対して有効であること
  • 建築単体ではなく、生活全般(土地探し、環境、治安)に関しても提案できる力があること
  • 固定費(主に人件費)や外注費のコントロールを行い、コスト管理を適正にできること

以下の記事に詳細を載せてあるので参考までに。

顧客の特性

2.ポーターの基本戦略からアトリエ系事務所の定石を考える

ポーターの基本戦略

まず、ポーターの基本戦略を概観してみます。その上で、アトリエ系事務所が取るべき戦略について見てみましょう。

ポーターは、基本戦略を、ターゲット(市場)と競争の優位性というふたつの軸から考えています。

まずターゲットとなるマーケット(市場)を2つに分けます。業界全体を狙う広いターゲットと、特定の分野を狙う狭いターゲットです。さらに、競争優位性を保つタイプとして、コストと特異性を上げています。その上で、戦略を以下の通り、コストリーダーシップ戦略と差別化戦略、そして集中戦略の大きく3つに大きく分けています。

以下では、その3つ戦略の特徴を簡単にまとめます。

出典:マイケル・ポーターの3つの基本戦略より http://keiei-algorithm.com/?p=493

コストリーダシップ戦略

コストリーダシップ戦略とは、業界全体の広い市場をターゲットとして、競合する他社のどこよりもコストを安くすることにより、他社の追随を許さない戦略です。つまり、規模の経済性を採用することで、他者に対して競争の優位性が獲得することになります。つまり、規模化によりコストを下げやすい事業に有効と言えるでしょう。

差別化戦略

差別化戦略とは、業界全体の広い市場をターゲットとして、製品やサービスなどが他社と異なる質的部分を武器に競争に勝つ戦略です。上記と異なり、コストは差別化の要因とはなりません。質的部分を顧客が認めるという部分が重要であり、それに叶えばブランドイメージ、製品の中身、品質、アフターサービスなど様々なものが差別化の要因となります。

集中戦略

集中戦略とは、業界の特定の分野の狭い市場をターゲットとして、その市場へ経営資源を集中して投入することにより、限られた市場の中で優位に競争を進めていく戦略です。量的な経営資源が少ない企業でも採用することが可能な戦略といえます。

基本戦略の成功条件とリスク

ポーターの基本戦略においては、以下のような成功条件とリスクがあります。

コストリーダシップ戦略の成功条件とリスク

コストリーダシップ戦略の成功条件は、規模の経済性を生かせるような大規模化が行えることが極めて重要であり、規模化によって利益を生み出し続けられるシステムを構築できることが成功条件となります。

また、リスクは以下の通りです。

  • 集中戦略を採用する他社が、ある分野においては大幅なコスト削減を実現する
  • 他社による「差別化戦略」が顧客を十分に惹きつけ取り込むことで、低価格が顧客にとって商品の魅力でなくなる
  • 新しい生産方式の開発により、コスト削減が他社にとっても容易になり規模化の意味がなくなる

差別化戦略の成功条件とリスク

差別化戦略の成功条件は、差別化の内容が顧客にとって十分に魅力的であり、且つその差別化の内容が他社にとって容易に模倣されないものであることが、成功条件となります。

また、リスクは以下の通りです。

  • 「差別化の内容」が顧客にとって魅力的でなくなる
  • 他社の圧倒的なコスト低下により差別化の魅力を維持できなくなる
  • 集中戦略を採用する他社が、ある分野においてさらなる差別化を図ってしまうこと

集中戦略の成功条件とリスク

集中戦略の成功条件は、顧客となるターゲットを絞り込むことで、ある特定の市場においては他社の追随を許さないような圧倒的な優位性を築くことです。

また、リスク以下の通りです。

  • 絞り込んだ市場において製品の需要がなくなる
  • 広いターゲットを対象とする他社の製品によって、絞り込んだ市場においても一定程度供給なされてしまうこと
  • 弊社が絞り込んだ市場を他社がさらに細分化して、一部の市場の需要を他社に取られてしまうこと

アトリエ系はどの戦略を採用するべきか

まちがいなく集中戦略

アトリエ系の戦略は、まちがいなく集中戦略となります。アトリエ系事務所は、数人で経営している小規模事務所が多いため、大きな市場を対象として経営資源を割く余裕はありません。

各アトリエ系事務所の強みを徹底的に洗い出して、その強みを最大限に活かせる小規模市場に全精力を注ぐ必要があります。

上記のリスクの中で、絞り込んだ市場をさらに細分化することで、一部の市場が取られてしまうことを上げました。アトリエ系事務所は、このリスクを体現する主体となることができます。他社が絞り込んだ市場をさらに絞り込み、自分の市場を開拓して、他の事務所との圧倒的な差別化を図ることができます。

事例をかんがえてみよう

たとえば、リノベーションの市場に絞りましょう。さらに、それを絞ってみましょう。

  • リノベーション
  • 高級マンションリノベーション
  • 東京都心部・高級リノベーション市場
  • 外国人向け・東京都心部・高級リノベーション
  • アジアからの外国人向け・東京都心部・高級リノベーション

といった具合です。各アトリエ系事務所の特長を最大限に活かせる市場を見つけないといけません。逆に言えば、ここに特化して経営を基盤に乗せることができれば、さらに隣接する市場へ打って出ることも可能となります。

まずはその絞り込んだ市場で業務を行い、必要に応じて次にとるべき市場を模索していけば良いです。

3.コトラーの「市場地位に応じた戦略」から、アトリエ系の戦略を考える

つぎに、フィリップ・コトラーの戦略から、アトリエ系事務所がとるべき戦略を考えてみましょう。フィリップ・コトラーはその企業が現時点で持っている経営資源によって、業界の競争場所が類型化できるとしました。

経営資源の中身

経営資源には、人海戦術や規模の経済性が可能となる「量的な経営資源」と、少人数であっても圧倒的に他社と佐賀つけることが可能な「質的経営資源」があります。

量的経営資源

  • 営業人数
  • 投入できる資金
  • 生産性
  • 生産能力

質的経営資源

  • 企業イメージ
  • マーケティング
  • 技術
  • トップのリーダーシップ力
  • デザイン力

プレイヤーの分類と戦略の定石

上記の経営資源の多寡から競争地位の類型が可能となります。具体的には、以下の4つに分類されます。また、その4つの地位が採用するべき経営基本方針はおのずと決まってきます。

出典:NRIのコトラーの競争地位戦略https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/ka/kotlers_compe

リーダーがとるべき基本戦略

量的経営資源と質的経営資源の両方がある場合は、市場リーダーとして、全方位型戦略をとります。戦略の定石としては、周辺需要を拡大し、他の商品との同質化を図り(つまり、差別化されている商品の廉価模倣版を作成する)、価格を下げて、市場をの最大シェアを実現することです。

チャレンジャーがとるべき基本戦略

チャレンジャーは、量的な経営資源は多いが質的な経営資源が低い場合です。ここでは、上記のリーダーの採用している戦略を分析して、リーダーとの差別化戦略をとります。リーダーとガチンコでぶつかるのではなく、リーダーの取りこぼした市場を獲得しながら、質的な経営資源を高めていく必要があります。

ニッチャーがとるべき基本戦略

量的な経営資源は少ないが、質的な経営資源が高い場合です。量的な経営資源が少ないということは、会社規模が小さいためそれほど大きな売り上げは必要としない。つまり、従業員数に対して一定程度以上の売上を目指せば良いです。

採用するべき戦略は、小規模市場に対して小規模リーダー、つまりミニ・リーダー戦略といえます。

フォロワーがとるべき基本戦略

量的な経営資源は少なく、質的な経営資源も少ない場合です。この場合には、リーダーとチャレンジャーの戦略を分析して、両者のアプローチを模倣していくことが必要となります。リーダーとチャレンジャーのとりこぼしを狙う選択です。

十分に売上を上げることが可能ですが、将来的にリーダーの戦略が改変した時に、迅速に変化できる柔軟性が必要となります。しかし、量的な経営資源も質的な経営資源も少ない場合、迅速な変化に取り残される可能性もあります。

アトリエ系の類型と、採用するべき基本戦略

まちがいなく、ニッチャーを目指すこと

アトリエ系事務所は、量的な経営資源は少なく、質的な経営資源が多いです。

(質的な経営資源(つまりデザイン)が少ない場合は、そもそも独立するのは早い!)

この場合の質的経営資源は、アトリエ系という名前通りデザインを基本として、それに付随する質的資源のことです。

このデザインを最大限に活かせるニッチャーとして小規模な市場で、小規模リーダーを目指すことが基本戦略となります。また、住宅デザインを売りにして雑誌などに発表していくことで建築家自身がブランド化し、さらに質的な経営資源が高めることも可能です。

4.アンゾフのマトリクスから、新市場や新製品の中で、アトリエ系事務所が取れる戦略を考える

上記の、ポーターの基本戦略と、コトラーの地位による戦略では、主に現時点の市場に対してとるべき戦略について考えてきました。

ここでは、将来に向けてアトリエ系事務所がとるべき戦略について、アンゾフのマトリクスから考えてみましょう。

アンゾフのマトリクス

アンゾフは、製品と市場という二つの軸から、企業の成長戦略を4つに分類しています。企業は、このうちのどこかを選択して経営資源を投入していくことになります。

出典:アンゾフの多角化戦略より
https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/a/anzohu

市場への浸透:既存市場 & 既存製品

既存の市場において、既存の製品によるアプローチです。ポーターの基本戦略と、コトラーの地位による戦略は、ここの象限で有効となるアプローチといえます。

製品開発:既存市場 & 新製品

既存市場において、新しい製品を投入することにより売り上げを目指していくアプローチです。勝手知ったる市場であれば、どういった製品が有効なのかを見極めることができます。ポーターの基本戦略と、コトラーの地位による戦略もここでも有効です。

市場の開拓:新市場 & 既存製品

新しい市場に、既存の製品でアプローチしていく戦略です。新しい市場の分析を行いながら、徐々に市場へ進出していくことになります。新しい市場には、もともとのリーダー的な存在がいます。そのため、ここではどんな会社であってもニッチャーとしてスタートすることになります。

多角化:新市場 & 新製品

新しい市場に、新しい製品でアプローチしていく戦略です。ここで、新しい製品の定義がどこにあるかにも大きく左右されます。通常は、全く新しい製品ということはなく、既存製品を新市場向けに流用した製品となるため、新しい市場であっても、既存市場と同じタイプの顧客を新しい市場で特定し、その顧客に向けて新しい製品をアプローチしていくことになります。

戦略の選択基準

戦略の選択基準は、以下の二つです。

市場の魅力度はどちらが高いのか

既存市場と新しい市場のどちらが市場としてより魅力的なのかが判断基準となります。つまり、同じ経営資源の投資をした時に、将来的に長期にわたり売り上げ増加が見込める市場がどちらなのかという点です。

優位性の構築はどちらがやりやすいのか?

既存製品と新しい製品では、どちらがより優位性を獲得できるかを検討しないといけません。新製品の開発は多くの社内投資を必要としますが、優位性の獲得が行えるならば、将来的に早い時期に資金回収ができるので、新製品の開発を優先するべきです。

アトリエ系はどの戦略を採用するべきか

多角化の象限で勝負をするべき

アトリエ系はまず、デザインを武器に(新製品を開発する方向)いくことになります。また市場に関しては、ニッチな市場を徐々に開拓していくことが必要となります。既存市場にはすでに多くのプレイヤーがいるので、新しい市場への参加が必須となります。

例えば

  • 新製品:日本の伝統を意識しつつ、外国人向けのホームパーティが可能なデザイン
  • 新市場:アジア系のハイテック系人材の移住市場

上記は少し大げさですが、アトリエ系の得意分野を十分に生かした形でアプローチしていく必要があります。

5.まとめ

ここでは、KSF(Key Success Factors)から、戦略のフレームワークをいくつか用いてアトリエ系の事務所がとるべき戦略について考えてみました。アトリエ系の事務所は、数人の小規模でおこなている場合が多いです。また、建築家の事務所というと、どのホームページも同じようなものが多くて、作品は確かにかっこいいのですが、比べるのが結構難しいです

他者との差別化をわかりやすく表現して、自分のデザインの強みを最大限に活かせる戦略をとることで、小規模であるがゆえに十分な将来性が見込めると思います。

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