業界の特性がわかったところで、次の疑問が湧いてきました。
アトリエ系に頼む顧客はどんな人なんだろう?ここがわかれば、なんか独立しても行けそうな気がします。
注文住宅をアトリエ系建築設計事務所に頼むクライアントってどんな人? そんな疑問に答えます。
本記事の内容
アトリエ系の建築設計事務所、つまり建築家に頼むクライアントの属性について考えます。以下の3点からまとめてみましょう。
- 最初に、顧客は誰なのかを考えます。どういった層がクライアントになり得るのか知らないことにははじまりません。
- 次に顧客ニーズ、つまりクライアントがアトリエ系設計事務所に求めるサービスです。
- 最後に顧客のKBF(Key Buying Factors)、つまり最終的にアトリエ系設計事務所に決めるもっとも重要な要因です。
アトリエ系建築設計事務所として独立したいけど、どういった顧客にアプローチすれば良いんだろう?最初の一件は親戚だからいいけど、次が決まってない!
小規模な建築設計事務所のもっとも重要な仕事は、クライアント探しです。なぜなら、クライアントがいないとせっかくのデザインも全く活かすことができません。そのためには、まずクライアントを探さなくてはいけません。
どうやって探すのか?自分のホームページを作ってアピールする。それはもう皆やっています。建築家のマッチングサイトに登録でしょうか。もちろんいろんな手段でアプローチする必要があります。建築設計事務所は綺麗なWEBページを作っている人も多いです。
しかし、まず重要なのは顧客とは誰なのか?誰にアプローチするのかを明確に認識しておくことです。
目次
- 住宅を購入する顧客とはいったい誰なのか?
- アトリエ系建築設計事務所を選ぶ顧客のニーズ
- 最終的にアトリエ系建築設計事務所を選ぶもっとも重要な要因(KBF)
- まとめ
1.住宅を購入する顧客とはいったい誰なのか?
住宅を買う年齢はどれぐらい?
まず、どういった年齢層が住宅を買うのでしょうか?
上記を見るとわかるように、住宅購入者は圧倒的に30代から40代であることがわかります。また、50代以降は長期のローンが組みにくくなることもあり、手元に資金がある場合を除いて、住宅購入者が減ります。上記でも比率は急激に低くなっているのがわかります。
住宅購入と晩婚化の影響 初婚年齢の平均は男性31.1歳、女性29.4歳
住宅購入にも、世間で言われている晩婚化の影響はあるのでしょうか。
平成28年度人口動態統計特殊報告「婚姻に関する統計」をみてみると、初婚年齢の平均は男性が31.1歳、女性が29.4歳となっています。この数値は、20年前の統計から見ると3歳ほどの上昇です。
ここから考えると、当然子供の生まれるタイミングも遅くなってきます。家族が増えて、生活の基盤としての住居を考え始めるのは、30代半ばから40代にかけてという人が多数を占めます。
こうしてみると、注文戸建の顧客(つまりアトリエ系設計事務所)が狙うターゲットとなるのは30−40代の家族持ちであることがわかります。
2.アトリエ系建築設計事務所を選ぶ顧客のニーズ
顧客のニーズは多様で貪欲
これは、どんな業界にも言えますが、顧客ニーズは多様です。顧客候補がたくさんいる程、同じ数の顧客ニーズがあります。住宅は個人が購入する最も高い買い物といえます。そのため、当たり前ですが、個人のこだわりが非常に強くなります。数千万もかけて適当な買い物はできないですから、真剣勝負になります。
しかし、建築設計事務所として考えてみると、事務所の成功の鍵を見つけるためにはこの多様で貪欲な顧客ニーズを把握分析し、しっかりと重み付けをしておく必要があります。
住宅を購入する目的
まず、住宅購入に至る目的を見てみましょう。
結果の上位3項目は以下の通りです。
- 1番目 自分の持ち家が欲しいから(51.5%)
- 2番目 月々の家賃がもったいないから(47.0%)
- 3番目 もっと広い家に住みたいから(41.7%)
「持ち家が欲しい」という理由が1番目にきています。家を所有するということに対するモチベーションが重要な要素です。2番目に、「家賃がもっていない」という、資金的な項目がきます。3番目以降に家の広さやデザインという点がきます。
ここから、重要な項目を大きく区分けすると、以下の4通りです。
- 個人の満足度(住宅所有、広い家、イメージのいい地域)
- 仕事関係(仕事先の近く)
- 安全(セキュリティ、子供の安全、よい生活環境)
- 資金のこと(家賃、資産形成)
どんな住宅を探しているのか?
以下の表をみてください。この30代から40代の住宅購入候補は、どんな住宅を探しているのでしょう。注目すべきは、アトリエ系建築設計事務所の顧客となる左から5番目の「土地を購入して注文」と6番目の「所有している住宅を建て替え」です。
これを見ると、世代を超えて「土地を購入して注文」する世帯数が20〜25%で推移しています。また、「所有している住宅を建て替え」は4−12%で推移しています。つまり、どの世代も4−5世帯に一つ世帯はアトリエ系設計事務所が担当できる顧客ターゲットに入ってきます。これは結構多い数と言えるのではないでしょうか。
また全体を俯瞰すると明らかなように、圧倒的に新築の分譲と一戸建てを探している人が多いことも留意しておく必要があります。
住宅を選ぶときの重視する条件は何か?
次に、住宅購入を考えている人が住宅選択にあたってどういった項目を重視しているのかをみてみましょう。
住居購入者の全体から見て、重要な上記3項目
- 物件価格
- 交通利便性(最寄駅からの距離や通勤時間)
- 日当たり
全体を見ると、価格、交通、日当たりがもっとも重要な上位3項目と言えます。
次に、アトリエ系建築設計事務所が担当する可能性のある分譲以外をみてみます。つまり、注文住宅(土地購入)と注文住宅(土地あり)の項目のところです。着目すべきは、表の中で濃い緑でかこまれた項目に当たります。
注文住宅(土地購入)で購入者が重要視する点
- 日当たり
- 土地の広さ、住戸の広さ(占有面積)
- 地域の治安
- 近隣の緑地、自然環境
- 内装、外装の美観
- 建物の建築様式、外観のデザイン
- 庭バルコニー
注文住宅(土地あり)で購入者が重要視する点
- 部屋数、間取りプラン(部屋の配置)
- バスルームやキッチン等の設備
- 建物構造部の耐久性、堅牢性
- 建物の建築様式、外観のデザイン
となっています。どうでしょうか。かなり特徴的なのがわかるともいます。これは、注文住宅(土地購入)の場合は、比較的若い家族世代であることが影響しています。家族が増えた、あるいはこれから増えていく場合、子供がいることを想定して、住戸の広さ、治安、環境、庭バルコニーなどを実現する注文住宅を要求しています。
一方で、注文住宅(土地あり)は立て直しの事例です。これは、ある程度の間、同じ場所に住んでいたということになります。つまり、近隣の人はすでに知っていますし、周りの環境や土地の規模は変えられません。そのため、住宅建設にあたって重要な項目には入ってきません。しかしその分、アトリエ系設計事務所の強みを生かせる住宅自体(外観、内観、設備、構造)への関心が極めて高いのがよくわかります。
3.最終的にアトリエ系建築設計事務所を選ぶもっとも重要な要因(KBF)
ここでは、上記の「顧客とは誰なのか」と、「顧客のニーズ」をみた上で、最も重要なものKBF(Key Buying Factors)をまとめます。
最終的な購買決定に至った最も重要な要因
上記の「注文住宅(土地なし)」と「注文住宅(土地あり)」の両方に合致した項目は、「住宅デザイン」であり、両者にとっても重要な要因と言えます。
- 建物の建築様式、外観のデザインがマッチしている
- コストパフォーマンス
- 住居内部の設備、構造などが十分にある
- 建物以外の環境や治安などにも相談にのってくれそう
最後に、ここまでのまとめ
ここでは、統計資料から住宅を購入する顧客がいったい誰なのか。そして顧客ニーズの中で最も重要なものを考えました。この部分の差別化が、A社を選ぶのかB社を選ぶのかの分水嶺となります。全然驚くべき結果ではないですね。住宅デザインが重要ということでした。
しかし、それに付随した以下の項目をどれだけ満たせるのかも考えていかなくてはいけません。デザインは好みがあります。しかし、以下の項目はデザインとは切り離して、独自に満たすことできます。どうでしょうか。こうした土地を探すお手伝いに力を入れることで、他の設計事務所と差別化するのも一つの考え方です。
- 日当たり
- 土地の広さ、住戸の広さ(占有面積)
- 地域の治安
- 近隣の緑地、自然環境
- 庭バルコニー
- バスルームやキッチン等の設備
- 建物構造部の耐久性、堅牢性