建築家 吉田五十八は、東京の日本橋出身の建築家です。数寄屋建築を独自の解釈で近代建築と結合させたことで有名です。
本記事の内容
本記事では、建築家吉田五十八の略歴、代表作、書籍を紹介したいと思います。建築家吉田五十八は30代前半でのヨーロッパの建築巡礼を経て、建築に対する考え方が大きく変化します。日本には日本の近代化の方法がある。彼は歴史的な蓄積のある数寄屋建築にその方法を見出します。そうしてみると、吉田五十八の建築の面白さがよくわかります。吉田の設計のどこは数寄屋?どこは近代建築?という探偵の目を持って吉田五十八の建築を見てみましょう!
目次
- 建築家 吉田五十八の略歴
- 建築家 吉田五十八の作品
- 吉田茂邸
- 大和文華館
- 惜櫟荘
- 建築家 吉田五十八の書籍 紹介
- まとめ
1.建築家 吉田五十八の略歴
建築家吉田五十八は、1894年に東京日本橋で生まれました。父親の太田信義は太田胃散の創業者ですから、かなり裕福な家庭でした。
吉田五十八は東京開成中学校を卒業したのち、1915年に東京美術学校図案科に入ります。今和次郎と同じですね。ここで建築家岡田信一郎の指導を受けます。
1923年に東京美術学校を卒業したのち、すぐに吉田建築事務所を開設します。大学に8年間も長くいたので、この時29歳です。それでも独立は若いですね。
1925年に当時の他の建築家と同じくヨーロッパを回って多くのモダニズム建築を見ます。この体験から、モダニズム建築というよりも、ヨーロッパの歴史的建造物(ルネサンス期の建築、ドイツのゴシック建築などの古典建築)から大きな衝撃を受けます。
これは、ル・コルビジェや堀口捨己ががヨーロッパを回り、特にギリシアで受けた衝撃などと似ています。つまり、「日本はこのままでは、この長いギリシアからの歴史を抱えたヨーロッパ・モダニズムには追いつけない!」というような、強い衝撃であったのだと思います。
これが吉田五十八の建築観を大きく変えます。「ヨーロッパはヨーロッパの作り方がある!」では、「日本人である自分達に作れるものは何だろう?」ということです。
ここから、当時すでに日本の過去の様式であった数寄屋造に着目して、その近代化を目指します。日本の伝統的建築について勉強をして、吉田五十八特有の近代化版の数寄屋造を設計することになります。
吉田の設計手法として具体的なものは、真壁ではなく大壁造の採用、吊束と欄間を省略すること、荒組障子と横棧の障子を採用すること、押込戸の発明、リシン吹付壁の採用、アルミパイプの下地窓等の工業生産材料の採用、座式と椅子式生活のレベル差による融合などで、近代をを目指しました。
この頃、ドイツ人建築家のブルーノ・タウトは堀口捨己と桂離宮を回り、数寄屋造とモダニズム建築の共通項について指摘しました。こうした時代的な影響も大きくあります。日本の建築界においては、このブルーノ・タウトの指摘により数寄屋建築が大きく見直されました。そして、吉田五十八の新しい数寄屋建築も、近代との接近が大きく評価されるようになります。
1941年に東京美術学校の講師に就任し、1961年まで東京美術学校教授を務めて後進の育成を行います。1974年に79才で逝去します。
2.建築家 吉田五十八の代表作 紹介
1961 吉田茂邸増改築
神奈川県大磯町に「旧吉田茂邸」はあります。実は、平成21年に吉田茂邸は大部分が焼失してしまいましたが、平成28年に再建されました。
応接間棟以外の大部分が、建築家吉田五十八の設計による増改築です。吉田茂自邸ですが、吉田茂はまるで迎賓館のような、外国からの要人をもてなす使い方を求めたと言います。
伝統的な数寄屋造りとモダニズム建築の要素が随所に見られます。

旧吉田茂邸は、大磯町郷土資料館別館として公開されています。再建ですが、その風情は感じられますので行ってみましょう。
- 大磯町郷土資料館
- 神奈川県中郡大磯町西小磯418
- TEL:0463-61-4700
- 開館時間:午前9時から午後4時30分まで(入館は午後4時まで)
- 休館日:毎週月曜日(祝日又は休日にあたる場合は開館し、翌日休館)、毎月1日、年末年始(12月29日~1月4日)
- 観覧料:一般500円(450円)中・高校生200円(150円)
1961 大和文華館
大和文華館は、奈良県奈良市にある私立美術館で1960年竣工です。
展示館は吉田五十八の代表作のひとつであり、城や蔵でよく使われる「なまこ壁」のデザインがモチーフとなっています。またこの展示室の隣には中庭があり、またバルコニーからの眺めも抜群です。
1962年に第3回BCS賞、2005年にDOCOMOMO JAPANに選定されています。

1941 惜櫟荘
惜櫟荘は、岩波書店の創業者・岩波茂雄氏の別荘で1941年竣工です。建築家が設計した名建築も、時代の趨勢により解体となります。この惜櫟荘もそうした解体が目前にありました。
しかし、作家の佐伯泰英氏が私財を投じて2011年に解体復元を行ったことで、消滅から逃れた貴重な建築となりました。
こうした例は、極めて珍しいと思います。こうして、大事な建築が時代に受け継がれていくことを願います。

3.建築家 吉田五十八の書籍 紹介
吉田五十八自邸/吉田五十八 (ヘブンリーハウス―20世紀名作住宅をめぐる旅)
入門書として最適です!!
アカデミズムの論争や流行から距離を置き、「日本の家」を独自に探求した建築家、名匠・吉田五十八。吉田茂や岸信介や梅原龍三郎などの戦前戦後のセレブたちの邸宅を手がけた数寄屋建築の巨匠がたどり着いた珠玉の自邸を本格的に紹介。日本のモダニズムは可能なのか?吉田五十八が出した解答がここにある。
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